
邦題:ハートのささやき
1970年に発売されたポール・マッカートニー初のソロ・アルバム “McCARTNEY”に収録された作品。アルバムにおけるこの曲の邦題は「恋することのもどかしさ」。
ポール初の本格的なソロ作品となったこのアルバムはビートルズのラスト・アルバムとなった “LET IT BE” とほぼ同時期( “LET IT BE” のおよそ3週間前)に発売された。ポールは「自分の方が先にアルバムの発売日を決めていた。”LET IT BE” と発売日が近くなったのは単なる偶然だ」と主張したが、ジョン・レノンは「ポールは自分のアルバムの宣伝のためにビートルズ(自分たち)を踏み台にした」と大憤慨。メンバーが離散のタイミングを計っていたこの時期。しかしそんなメンバーを何とか繋ぎとめようと最後まで努力していたのはポールだった。その彼自身がリリースしたこのソロ・アルバム。経緯はどうであれ、かのポール・マッカートニーのソロ・アルバムがビートルズのアルバムと同時期に発売ということにあれば世間の注目を集めることは容易い。自分のソロとしてのキャリアを良い形で始めるために解散を遅らせていたのではないか…当然の嫌疑であった。そしてこれによってポールと他の3人との亀裂は決定的となった。
自らが自らのために作る初めてのアルバムで彼が求めたものは「シンプルさ」だった。これはスタジオワークに没頭した中期以降のビートルズ(彼自身)に対するアンチテーゼであったのかもしれない。ポータブルの4トラックのレコーダーを使用し、全ての楽器を自ら演奏し、ミックス作業も最小限に止められた。
しかしポールの意図に反し、世間はこれを「粗雑な作品」として捉えた。同年しばらく後にリリースされたジョンの “PLASTIC ONO BAND” も同じく「シンプルさ」を目指した作品であったが、過去の呪縛から脱却しようともがき苦しみ自らの感情をぶちまけるかの如き彼の「叫び」はシンプルながらも聴き手の心に響いた。中でもアルバムのラスト・ナンバー”God” (その後に続く “My Mummy’s Dead” は “ABBEY ROAD” の “Her Majesty” と同じような位置付けであり、そういう意味で実質的なラスト・ナンバーは “God” と捉えられると思う。)で”I don’t believe the Beatles. Dream is over. (俺はビートルズを信じない。夢は終わった。)”と言い放った彼の声に多くの人が衝撃を受けたに違いない。アルバムとしての完成度も高かった。
蛇足ではあるが、最後のMy Mummy’s DeadにあえてHer Majesty的なポジションをとらせ、かつMummy=ポールであるとすればこれは暗にポール個人への決別宣言ともとれる。
ビートルズを否定するジョンに戸惑いつつ、それでも人々はジョンを賞賛した。ジョージ・ハリスンもまた大作 “ALL THINGS MUST PASS” をリリースし、ビートルズ時代にレノン=マッカートニーに抑圧されていた才能を一気に開花させ、大成功を収めていた。
一方”McCARTNEY”はその前評判に反して人々を裏切った。ビートルズにあって稀代のメロディーメーカーの名を欲しいままにしていたポールの作品にしてはあまりに物足りなかったのだ。さらにポールの言葉にはジョンのようなむき出しの感情も一切無い。彼の目指した「シンプルさ」とは「飾らない、アットホームな雰囲気」だった。他のメンバーと同様、彼は彼なりにビートルズの呪縛を振りほどいて「ビートルズではない自分」を模索していたのかもしれないが、中後期以降のビートルズは音楽的にほぼポールが支配していたことを考えればビートルズの否定はポールにとっては自己否定に他ならないのだ。このあたりがこの時期に自分を解放して成功したジョンやジョージとは事情が異なっている部分である。
アルバムは商業的には成功したものの内容に対する評判は散々だった。また解散時の経緯から「ビートルズを仲間割れさせた男」とレッテルを貼られたことも手伝い、彼の風評は瞬く間に地に落ちていった。
悪評ばかりが立ったファースト・アルバム。しかしその中にあって “Maybe I’m Amazed” には図抜けた存在感があった。他の曲同様にミキシングは荒削りで特にオルガンのバランスは明らかに違和感があるし、エンディングも中途半端でセッションを中断するかのようにいきなり終わってしまうという消化不良状態。しかし楽曲としては非常に優れている。メロディーラインは美しさと緊張感を併せ持つ絶妙なもので、転調は多いが展開も無理なく自然である。歌詞にも彼が時折見せる閃きが感じられた。なんというか、「爽やかな憂い」とでも表現したらよいのだろうか。ポール自身もお気に入りの作品のようで、後年結成されたウィングスのライブパフォーマンスでもこの曲を取り上げていた。1970年のビートルズ解散直後から1973年の”BAND ON THE RUN”で復活を遂げるまで、いわゆる彼の「低迷期」に発表されたアルバム “McCARTNEY”, “RAM”, “WILD LIFE”, “RED ROSE SPEED WAY” の収録曲のうち後年のライブに定期的に取り上げられたのはおそらく “RED ROSE SPEED WAY” の “My Love” とこの曲だけだと思う。”My Love” がシングル用の曲だったことを考えれば、彼がステージ上でこの不遇の時期を回顧する曲はこの曲だけということになる。特別な曲なのだ。
1973年発売のアルバム “BAND ON THE RUN” で再び大衆の喝采と自信を取り戻したポールと彼のバンド「ウィングス」は、1976年のアルバム “WINGS AT THE SPEED OF SOUND” でその絶頂期を迎える。このアルバムはワールドツアーの最中に製作されたものだが、このツアー中のアメリカでのライブ・パフォーマンスが2枚組みのアルバム “WINGS OVER AMERICA” として発売された。
ここで “Maybe I’m Amazed” はオリジナルよりもはるかに洗練されたアレンジで演奏されている。感情のこもったポールのピアノはもちろん、ジミー・マカロックのギターも非常に冴えている。中間のドラマチックなリタルダンド、そしてエンディングもキチンと組まれている。これぞまさに「完成形」だ。
日本ではこの曲が「ハートのささやき」というタイトルでシングルカットされた。ウィングスの来日公演がついに行われる事が決定したのを記念してのことだった。公演は1980年の1月に予定され日本中のファンが1966年以来となるポールのステージを楽しみにしていたのだが、あろうことか来日したポールは到着した成田空港で大麻不法所持のために逮捕されてしまい公演は実現しなかった。
さて。今回コピーの素材にしたのはこのウィングスのバージョンだ。
自分がギターを弾き始めた当時に購入したビートルズの「ギター弾き語り」の楽譜。シンコーミュージックからシリーズとして3冊発刊されていたがそのうちの1冊に “Maybe I’m Amazed” のウィングス・バージョンが載っていた。「ビートルズ」の楽譜なのに何故ソロワークの曲が入っているのだろう?
同じ頃に買った同社発刊の黒表紙のビートルズのバンドスコアのシリーズにもやはりこの曲が掲載されていた。聴いたことのない曲ではあったが、ソロ時代の作品であるにもかかわらず肝心のビートルズの楽曲に割って入ってこうも取り上げられていると気になってくる。そんな折、近所のレコード店でたまたまこのシングル盤「ハートのささやき」を発見。思い切って購入してみた。¥600。当時は高校生だったのでこの程度の金額であればなんとかなる。なによりポールの曲なら絶対に期待を裏切らないはずだ、と信じていたのだ。
期待をはるかに上回る素晴らしいレコードだった。手元の楽譜を見ながら何とかソロのフレーズだけでもを弾いてみようと試みるも初心者ゆえになかなかうまく弾けない。ギターも良かったがピアノがまた素晴らしい。ギターすら始めたばかりの自分ではあったが弾けもしないピアノが無性に弾きたくなったものだ。
しかし結局どのパートを習得することも無く、スコアはどこかへ行ってしまった。時が経っても変わらず好きな曲ではあったので、その後25年間よく聴いていた。2010年4月。何かの拍子にYouTube上で”Maybe I’m Amazed part 1 by Paul McCartney Piano Lesson”なるコンテンツを見つけた(注:2010年4月14日現在削除済みのため閲覧できない)。聴いてみたがどこか自分の印象と違う。同じようなことを考える人はいるもので関連動画でやはり弾き方を披露しているものをいくつか見たが、どれもしっくりこない。
しっくりこないなら、自分で演ってみるか。
違和感はあってもYouTube上のコンテンツは参考にはなる。おかしいと思うところだけ自分なりに直せばよいのだ。スコアが無くても今の自分の耳なら何とかなるかもしれない。この程度のギターならもう弾ける。ベースは完コピする意味も無さそうなのでノリで弾けばいい。問題はピアノ。この音がちゃんととれてちゃんと弾けるるかどうか…。
Take #1 ~ 2010.04.14
アルバムMcCARTNEYに収録されているオリジナル版とウィングスのライブ版ではAメロのコード進行が違うように聞こえる。ウィングス版の自分なりの解釈は
| Bb F/A | C G/B | Bb F/A | C |
| Bb F/A | C G/B | Bb F/A | G# Eb/G | C |
である。あと ♪Won’t you help me to understand の後のブレークのアタマではピアノの左手がF#なのにベースはDを弾いてるようだ。
…まぁこれが正解かどうかはわからないが。
で、録音。いつものように原曲に沿ったテンポマップを作成するところから始めた。しかしこの曲、ライブ演奏のためかかなりテンポが暴れている。割り出すことは可能なのだがこれだけ動くテンポに合わせて演奏するのは結構大変だった。
まずピアノ。この曲のメインとなるパートで弾いててとても楽しいのだがなにぶん技術が伴っていないので気分がノッてくると演奏が雑になってミスタッチが増えるしテンポも乱れてくる。しかしそこは所詮MIDIデータ。拍にタイミングを合わせたりミスタッチを取り除いたりということは容易にできる。
テンポ暴れで問題になるのは録音後の修正がききにくいオーディオソース…自分の場合はギターとベースだ。Logicでオーディオ・ファイルにクオンタイズをかけることもできるのだが、これをやってしまうと音質がガラッと変わってしまい使い物にならなくなる。そこで今回はLogic 9から搭載されたオーディオファイル操作のための新機能「タイムフレックス」を初めて使ってみた。これが意外と役に立つ。タイミングの微調整程度であれば元データのイメージを維持したままで修正することが可能だった。この機能が最も活躍したのはギターの空ピックの部分。波形のアタマを拍に合わせることで非常にカチッとしたタイミングを作ることができた。その他にも微妙に突っ込んだりモタったりした部分にも当てた。これは今後使えそうな機能だ。
ミキシングも悩んだ。リバーブ掛けすぎると嫌味っぽいし、でも原曲はライブステージなのでそこそこ残響が必要。一応まとめはしたが…まだまだ勉強しないといけないな。










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